FXをマスターする
外国為替市場を動かす5大要素
1. 政策金利
マクロレベルにおいて、外国為替取引に最も影響を与える要素は、中央銀行の存在と中央銀行が管理する政策金利の動向です。一般的な見方として、中央銀行が金融引き締めを実施する場合(=政策金利を引き上げる場合)、実体経済は成長しており、見通しは楽観的となります。一方、中央銀行が金融緩和を実施する場合(=政策金利を引き下げる場合)、景気は後退し、見通しは悲観的な状況だといえます。政策金利の動向だけでこのように定義付けるのは早計かもしれませんが、景気変動に対する中央銀行の金融政策については、基本的にこのように考えます。
トレーダーが中央銀行の金融政策を意識してポジショニングを始めると、外国為替の値動きは複雑化します。なぜなら、トレーダーが金融引き締め(=利上げ)を期待する場合、通常、政策金利の発表日よりもかなり前にその国の通貨を買い始め、反対の場合は売り始めるからです。しかし、期待に反した発表となった場合、事前予測に基づくそのようなポジションは一斉に決済され、マーケットは大荒れとなります。
2008年の世界金融危機以来、主要な中央銀行のほとんどが、政策金利に関する意思決定をマーケットに対しできるだけ慎重に伝えるため、情報開示の管理体制を強化してきました。
2. 為替介入
為替レートが、その国の実体経済に悪影響を及ぼすことがあります。そのような場合、その国の中央銀行が為替介入を実施し、為替レートを直接操作するケースがあります。
例えば、日本のように輸出に依存している国は、極端な円高になることを望みません。下表では、為替レートとDVDプレーヤーの販売価格および売上額の関係を表しています。
DVDプレーヤーの販売価格(USD) | 日本の輸出業者の売上額 | |
---|---|---|
為替レート(USD/JPY) 1$=80円 | $100 | 8,000円 |
為替レート(USD/JPY) 1$=100円 | $100 | 10,000円 |
為替レート(USD/JPY) 1$=120円 | $100 | 12,000円 |
DVDプレーヤーの販売価格(USD) | 日本の輸出業者の売上額 |
---|---|
$100 | 8,000円 |
DVDプレーヤーの販売価格(USD) | 日本の輸出業者の売上額 |
---|---|
$100 | 10,000円 |
DVDプレーヤーの販売価格(USD) | 日本の輸出業者の売上額 |
---|---|
$100 | 12,000円 |
日本の輸出業者は、為替レート(USD/JPY)が、1$=80円よりも120円であることを望みます。円安であるほど売上が伸びるためです。1$=120円を基準に考えると、1$=120円よりも円高になる場合、日本の輸出業者は、製品の販売価格を$100以上に値上げしないといけなくなります。そうしないと売上が下がってしまうためです。そのため、円高が進んでいるときは特に、日本の輸出業者にとって頭の痛いジレンマとなります。
行き過ぎた為替レートを是正するため、その国の中央銀行が為替介入を実施することがありますが、これは為替市場において自国通貨の供給量を増やし、為替レートを操作するという政策です。例えば、日本の場合、円高が極端に進行する局面においては、政府短期証券を発行して円資金を調達し、これを原資に為替市場においてドル買い・円売りをおこない、円高の進行に歯止めをかけます。自国通貨の供給量を増やすことで、通貨の希少性を相対的に下げ、ごく自然な形で通貨を減価させるという方策です。
為替介入は政策金利の発表等と異なり、通常は実施されるまで公表されないため極めてサプライズ性の強い施策なのですが、実際にはその予兆があります。それは中央銀行(や政府)の口先介入です。自国通貨について「歴史的に過大評価されている」と繰り返し発言する場合等は、為替介入をする可能性が高いといえます。とはいえ、為替介入のタイミングを事前に把握することは難しいため、サプライズのイベントであることはしっかり認識しておきましょう。
3. オプション取引
通貨オプション取引の多くは、国際ビジネスのために利用されます。つまり、為替レートの変動に対するリスクヘッジが目的です。しかし、投機目的の取引というのが非常に増えてきています。
FXトレーダーの中で最も人気があるのが、ダブル・ノータッチ・オプション(NDT)です。EUR/USDやUSD/JPYのような人気のある通貨ペアにおいて、切りの良いレートで設定されるオプション取引ですが、これも投機筋の標的にされることがあります。その通貨ペアのレートが大きく動き、心理的な水準となるオプション取引のレートに近づくと、その水準にタッチすると同時にすぐに値を戻してしまうことがあれば、一方では、寸前まで近づくもののタッチせずに値を戻すということもあります。
4. 恐怖と欲望
一言でいえば、恐怖が急落するマーケットをパニック状態にし、欲望が高騰するマーケットに衝動買いを生む、ということです。
1920年代後半に起きた歴史的できごとが、その一例です。当時、「ウォール街で何から何まで買う」という言葉が流行していました。人々の欲望は頂点に達し、株価は永続的に上昇し続ける、という考えが当たり前でした。そして、暗黒の火曜日を迎え、恐怖は世界恐慌を引き起こしたのです。
恐怖と欲望という2つの感情は、逆の連鎖も生み出します。2009年から始まったユーロ危機、特にギリシア危機において、恐怖が人々の思考を支配し、ユーロは投げ売られる展開となりました。投資家の欲望により、まもなくして、雇用やインフレ・ダイナミクスに悪影響をおよぼすレベルにまでユーロの値は崩され、結果、欧州中央銀行は市場のあらゆるメカニズムを駆使して、通貨切り下げをせざるを得なくなりました。
恐怖や欲望がマーケットに影響を与えた後、その事実を指摘するのは容易なことですが、それがいつ実際に起こるか予測するのは、大変難しいことです。
5. ニュース
事前に発表が予定されているニュースとそうでないものがありますが、いずれもマーケットに対する影響には特徴があります。予定されているニュースは、多くのトレーダーが織り込み済みであるため、マーケットは決まりきった動きとなります。一方で、予期していない突発的なニュースでは、トレーダーにできることはほとんどありません。単にリスクを管理し、悪影響を避けるだけです。
しかし、予定されているニュース全てが、マーケットに影響するということではありません。トレーダーは、マーケットを動かす重要イベントがいつあるかを把握し、それをどのように切り抜けるかを常に考えなければいけません。たとえば、一般的な見方として、有名な金融センターから発表される雇用に関するレポートは、製造業売上高に関するレポートよりもマーケットを動かす傾向があり、小売売上高の数字の変化はマネーサプライに関するレポートよりも影響力が強いといえます。
経済指標カレンダーは、どのレポートがマーケットに最もインパクトを与えるかを判断する重要な材料となります。全ての重要指標が、雇用統計(非農業部門雇用者数)や政策金利の発表のように、結果発表と同時に大きな値動きを生むわけではありませんが、そのような経済指標でもマーケットを大きく動かす可能性があり、マーケットがいつ大きく動くかを知ることは、トレーダーの最大の武器となります。