テクニカル分析 上級編
フィボナッチ分析
まずはフィボナッチの歴史について
フィボナッチ理論について詳しく見ていく前に・・・まず「フィボナッチって何?」というご質問に答えていきましょう。実は「フィボナッチ」とは人名で、レオナルド・フィボナッチという中世ヨーロッパの数学者です。
彼は西暦1202年に、「Liber Abaci」(「計算の書」、または「算盤の書」)を著し、先に発展していたインド・アラビア数学をヨーロッパに紹介しました。彼はこの書の中で、貿易のための通貨換算や測量法、利子の計算、そして多数の数学的また幾何学的な問題について論じ、ヨーロッパに多大な影響を及ぼしているのですが、特に2つ、今日の世界にも活かされているものをご紹介しましょう。
まずはアラビア式の記数法です。当時のヨーロッパではまだローマ帝国由来の文化が色濃く残っており、ローマ数字の表記法が主に使われていました。その中でフィボナッチは、「計算の書」をもって大変強力かつわかりやすい形でアラビア数学の導入を提唱し、大きな影響を及ぼしたのです。そこからアラビア数学はヨーロッパ知識層に浸透する足掛かりを確保し、ほどなくしてヨーロッパ、ひいては世界における支配的な数学体系となっていったのです。その影響力は、今日私たちが依然として実用しているほど強かったといえるでしょう。
次に挙げられるのが、かの有名な「フィボナッチ数列」です。フィボナッチ数列とは、最初の2つが0と1、その後は前2つの数の和となっている数列で、
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144…
と永遠に続いていくものです。
最初の2つの0と1を足すと3番目の1になり、2番目の1と3番目の1を足すと4番目の2になります。これを続けていくと、次のような計算結果が続いていきます。
1 + 1 = 2; 1 +2 = 3; 2 + 3 = 5; 3 + 5 = 8; 5 + 8 = 13; 8 + 13 = 21; 13 + 21 = 34; 21 + 34 = 55…
このフィボナッチ数列を大前提として、フィボナッチ比率が算出されます。
フィボナッチ比率とは?
インターネットの発展に伴い、特にトレーディングの分野でフィボナッチ分析が一般化するにつれ、フィボナッチ比率を構成する値などにつき、誤った解釈や理解があふれる状況になっています。ここではフィボナッチ比率がどう構成されるかにつき正しく理解できるよう、基本原則と、実は誤っているフィボナッチ比率の解釈についてもみていきましょう。
フィボナッチ比率の原則
フィボナッチ比率の算出は、数学的には非常にシンプルです。フィボナッチ数列から任意の値を選び、決まったやり方で割り算をするだけです。まずは例として、フィボナッチ数列のそれぞれの数をその次の数で割ってみましょう。
0 ÷ 1 = 0
1 ÷ 1 = 1
1 ÷ 2 = 0.5
2 ÷ 3 = 0.67
3 ÷ 5 = 0.6
5 ÷ 8 = 0.625
8 ÷ 13 = 0.615
13 ÷ 21 = 0.619
21 ÷ 34 = 0.618
34 ÷ 55 = 0.618
55 ÷ 89 = 0.618
さて、上記から法則性が現れるのをご覧いただけるでしょうか。求められる数値が、21÷34から永遠に、約0.618のままになるのです!
では次に、フィボナッチ数列のそれぞれの数を、その一つ前の数で割っていきましょう。
1 ÷ 0 は除外
1 ÷ 1 = 1
2 ÷ 1 = 2
3 ÷ 2 = 1.5
5 ÷ 3 = 1.67
8 ÷ 5 = 1.6
13 ÷ 8 = 1.625
21 ÷ 13 = 1.615
34 ÷ 21 = 1.619
55 ÷ 34 = 1.618
89 ÷ 55 = 1.618
144 ÷ 89 = 1.618
すると今度は、1.618が現れてくるのがわかります。なんとこれは「黄金比(黄金分割)」、「黄金数」、「神の比率」などといわれ、歴史上非常に重視され活用もされてきたものです。自然界にもこの法則があるといわれており、この黄金比についてだけで相当数の論が挙げられます。
さて下表は、同様にフィボナッチ数列のある数を、他の順番の数で規則正しく割ってみた場合のパターンです。
2つ後の数字で割った場合 |
2つ前の数字で割った場合 |
3つ後の数字で割った場合 |
3つ前の数字で割った場合 |
0 ÷ 1 = 0 | 1 ÷ 0 = 無効 | 0 ÷ 2 = 0 | 2 ÷ 0 = 無効 |
1 ÷ 2 = 0.5 | 2 ÷ 1 = 2 | 1 ÷ 3 = 0.33 | 3 ÷ 1 = 3 |
1 ÷ 3 = 0.33 | 3 ÷ 1 = 3 | 1 ÷ 5 = 0.2 | 5 ÷ 1 = 5 |
2 ÷ 5 = 0.4 | 5 ÷ 2 = 2.5 | 2 ÷ 8 = 0.25 | 8 ÷ 2 = 4 |
3 ÷ 8 = 0.375 | 8 ÷ 3 = 2.67 | 3 ÷ 13 = 0.231 | 13 ÷ 3 = 4.33 |
5 ÷ 13 = 0.385 | 13 ÷ 5 = 2.6 | 5 ÷ 21 = 0.238 | 21 ÷ 5 = 4.2 |
8 ÷ 21 = 0.381 | 21 ÷ 8 = 2.625 | 8 ÷ 34 = 0.235 | 34 ÷ 8 = 4.25 |
13 ÷ 34 = 0.382 | 34 ÷ 13 = 2.615 | 13 ÷ 55 = 0.236 | 55 ÷ 13 = 4.231 |
21 ÷ 55 = 0.382 | 55 ÷ 21 = 2.619 | 21 ÷ 89 = 0.236 | 89 ÷ 21 = 4.231 |
34 ÷ 89 = 0.382 | 89 ÷ 34 = 2.618 | 34 ÷ 144 = 0.236 | 144 ÷ 34 = 4.235 |
55 ÷ 144 = 0.382 | 144 ÷ 55 = 2.618 | 55 ÷ 233 = 0.236 | 233 ÷ 55 = 4.236 |
89 ÷ 233 = 0.382 | 233 ÷ 89 = 2.618 | 89 ÷ 377 = 0.236 | 377 ÷ 89 = 4.236 |
144 ÷ 377 = 0.382 | 377 ÷ 144 = 2.618 | 144 ÷ 610 = 0.236 | 610 ÷ 144 = 4.236 |
ご覧のように、フィボナッチ数列の中で数字の割り方のパターンを変えるだけで、様々なフィボナッチ比率が現れてきます。
しかし、フィボナッチ比率の現れ方はこれだけではありません。ある比率を数列内の数字の割り算から算出すると、その平方根から今度は別の比率が求められるのです。下表でその例をご覧ください。
元のフィボナッチ比率 |
計算方法 |
結果 |
0.236 | 0.236の平方根 | 0.486 |
0.382 | 0.382の平方根 | 0.618 |
0.618 | 0.618の平方根 | 0.786 |
1.618 | 1.618の平方根 | 1.272 |
2.618 | 2.618の平方根 | 1.618 |
4.236 | 4.236の平方根 | 2.058 |
ではここで、フィボナッチ比率をパーセント表記にしてみましょう。0.236は23.6%、 0.382は38.2%というようになります。これらのフィボナッチ比率パーセンテージを並べてみると、
23.6%、38.2%、48.6%、61.8%、78.6%、127.2%、161.8%、205.8%、261.8%、423.6%
となり、これらの数値がテクニカル分析で用いられています。
これらの数値は、絵画や建築などの美の基準、また自然界での発現などとして論じられており、様々なところで応用が利く根拠があると信じられているようです。
では50%は?
さて、よく「50%」がフィボナッチ分析で使われることがありますが、これは厳密にはフィボナッチ比率ではありません。20世紀初頭にW.D.ギャンによって考案された「ギャン理論」において、50%という値がキーの一つとして重視され、また「神聖比率理論」で2の逆数として0.5=50%が出てくるため、根拠のある目安としてフィボナッチ分析に用いることが多いようです。
トレーディングへの応用
では、実際にフィボナッチ比率をトレーディングに応用するにはどうしたらよいのでしょうか。
取引ツールでも描画ツールなどでいくつかフィボナッチのツールが実装されていますが、ここではマーケットレポートでもよく言及されることのある、「フィボナッチ・リトレースメント」の使い方をみてみましょう。
簡単な原理としては、フィボナッチ・リトレースメントの場合、チャートのある範囲の山から谷、つまり短期や長期で目安となる高値と安値を結び、その上下の幅を100%としてフィボナッチ比率のたとえば38.2%や61.8%、また161.8%(黄金比)などにラインを引き、サポートやレジスタンスの目安として狙いを定めるというものです。高値と安値を付けた後に、今後どこまで価格が伸び、またはどこで止まったり反転したりするか、という目安です。
特にFXのように取引量や参加者数が大きいマーケットにおいて、様々な思惑から形成される値動きは、ある意味自然現象のような動きをする可能性があると考える人もいます。そして、「フィボナッチ比率がチャートの動きと関連しているかもしれない」と思う参加者が多くいるとすると、だいたい同じレベルがサポートやレジスタンスとしての目安となり、それが心理的な作用で本当に取引の発生する根拠となる、という可能性もありえます。このように、結果的にフィボナッチ比率が多数の参加者の取引行動に影響を与えうる、ということ自体が、フィボナッチをベースとした分析の存在意義になっているのです。
ただ、高値と安値を取る範囲をどう取るかについては、当然様々な見方があります。その中でも、長期的な観点からの記録的な高値や安値については、比較的多くの投資家が同じように見ていると思われるため、まずはこれらの上下をもとにフィボナッチ・リトレースメントで線を引き、それぞれのレベルがどのような作用をしているかを見てみるとよいでしょう。
ぜひ、フィボナッチ比率のラインを引きながら、FOREX.comのマーケット分析や実際のチャートの値動きを見て、研究してみてください。