「2021 年の見通し」として弊社が分析する大局的な視点を是非お読みください。内容には、新型コロナウイルス用ワクチンのマーケットへの影響、ジョー・バイデン氏の大統領選勝利によるマイナス影響、拡大する財政赤字と債務が及ぼす長期的なマイナス影響などがあります。
世界最大の経済大国、米国と中国の関係が、このほど任期を終えるトランプ大統領の指揮下で大きく悪化したことは明らかです。
状況を簡単に説明すると、トランプ大統領は就任前から、中国が全身全霊で進める「一つの中国」政策に疑問を投じていました。就任後は、両国は互いに報復的な関税引上げを繰り返し、最終的には「貿易戦争」にまで発展しました。これにより、中国からの輸入品 3,000 億ドル分に影響が及びました。トランプ大統領は任期満了を目前に控えた時期にも、新型コロナウイルス (「チャイナ・ウイルス」) の感染拡大への対応について中国を責め続けました。トランプ大統領が任期を終える中、政治評論家の中には、両国間に「冷戦」が新たに勃発しつつあると考えている人もいます。
さて、トランプ大統領はこのほど任期を終えるので、米中は今後、関係回復に向かって協力できると言えるのでしょうか?残念ながら、問題はそこまで単純ではありません。
トランプ政権は、中国に対して特に攻撃的で好戦的な姿勢を示してはいましたが、同政権の対応はあくまでも、米国民全体が中国に向けている非好意的な見方を反映していました。ピュー研究所が最近実施した世論調査によると、米国成人で中国を非好意的に見ている人の割合は、全体の約 4 分の 3 (73%) と、2018 年以来大きく増加したことが明らかとなっています。
出典:ピュー研究所
重要な点は、中国に向けられたこのような懐疑的な見方が両政党間で共有されているということです。つまり、バイデン政権が開始しても、米中関係の黄金時代の幕開けという流れにはなりそうもない、ということになります。
出典:ピュー研究所
中国人民大学国際関係学部の副学部長、金灿荣教授は、「米国の 2 大政党間では、中国を封じ込め、中国に敵対するという戦略的な合意がなされている」としています。
では、2021 年以降、地球上で最も重要な経済関係からは何が期待できるのでしょうか?
現状を分析すると、米国は今後、中国と直接対峙するよりも、多国間協定を通して中国を封じ込める動きに移っていく様子が伺えます。例を挙げると、バイデン政権は米大陸地域の既存の同盟国に向けて、中国の拡大を抑える目的で、人権、民主主義の原則、市場経済に関する価値観を共有することの重要性を呼びかけていく可能性が高いと言えます。この取り組みの中で、バイデン政権はトランプ大統領が導入した関税を撤廃することなどを条件に、交渉を進めていく可能性があります。
もちろん、中国はこういった政策を国政干渉とみなす可能性が高いので、米国が近いうちに突然強力な同盟を築くとは考えられません。とはいえ、米中両国が、ワクチン供給や気候変動といったグローバルな問題への取り組みで協力する機会は、未だに限定的と言えます。米中間の重要な紛争の一部に関する期待をまとめた内容を、以下の図に示しています。
出典:環球時報
マーケットに及ぶ可能性のある影響
上述した地政学上の背景は、米中間の関係や貿易に今後数年間にわたり大きな影響を及ぼすことは確実ではあるものの、両国間の貿易量に最も大きく影響する要素は、為替レートとなるでしょう。
純粋な仕組みとしての観点からこの問題を見ると、一方の通貨が他方に対して弱くなると、弱い通貨を持つ国からの輸出が安価となり、有利になります。2020 年中盤から、米ドルが全般的に弱くなっており、特に対中国元では大きく値下がりしています。現在までの 1 年で中国元は 1 米ドル当たり平均 7.05 元となっており、2020 年後半は米ドル安の傾向が続き、本記事の執筆時点である 11 月中旬では同 6.55 元にまで下がっています。
出典:TradingView, GAIN Capital
その他の条件は一定である中、10% 近くの米ドル安は、(継続すれば) 米国から中国への輸出を、貿易戦争も含めた過去 4 年分を超える水準にまで押し上げる可能性があります。今のところ中国の政策立案者らは、元高の背景に、中国が新型コロナウイルスに世界に先駆けて対応したことや、国債の利回りが比較的高いことがあると捉えており、元高に懸念を示している様子は見られません。また、世界 15 か国 22 億人が関わる巨大な協定「地域的な包括的経済連携協定 (RCEP) 」への署名や、26 兆ドルに上る経済生産高により、中国やアジア太平洋地域広域の資産額が大きく伸びました。
今後、中国当局は国際的な交渉の一環として、人民元の上昇率を抑えようとするかもしれませんが、中国元が強い状態が続く限り、米国当局は中国に対する経済的圧力を早急に強める必要性を今まで程には感じなくなるかもしれません。
現在までの 4 年間で見てきたように、米ドル/中国元の為替レートは米中間の緊張をリアルタイムで示す指標となり得るので、2021 年以降は、米ドル/中国元が注目すべき最重要マーケットの 1 つとなるでしょう。
「2021 年の見通し」として弊社が分析する大局的な視点を是非お読みください。内容には、新型コロナウイルス用ワクチンのマーケットへの影響、ジョー・バイデン氏の大統領選勝利によるマイナス影響、拡大する財政赤字と債務が及ぼす長期的なマイナス影響などがあります。