新型コロナウイルス用ワクチンとマーケットへの影響
中国武漢にて最初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから 1 年以上が経ちました。ウイルスの感染が拡大した結果、第 2 四半期では世界各地で前代未聞の都市封鎖が実施され、続く第 3 四半期には、夏が訪れると同時に記録的な回復基調が見られました。第 4 半期には第 2 波、第 3 波が発生しました。11 月にはワクチン研究で第 III 相の結果が発表され、年末には、現場の最前線で働く職員や接種が優先されるべきグループが初回の接種を受けることとなりました。
米国の年間 GDP 成長率
出典:Trading Economics, BLS
2021 年の最初の数か月は、2020 年の年末と同じ状況が続く可能性が高いでしょう。
- ウイルスが引き続き拡大することによる、世界的なロックダウンや制限が実施される恐れ
- サービス業を中心に、落ち込む経済データ
- 世界各地の政府や中央銀行が実施する追加の財政・金融政策
第 2 四半期が始まり、ワクチンの供給が拡大するにつれ、物事は「元の日常」に戻り始めるはずです。しかし、一般的には「元の日常」が好ましいとはいえ、マーケットにとってはこれが必ずしも朗報とは限りません。2021 年を通してワクチンの供給が広まる中、注目すべきマーケットを以下で説明します。
経済データ
年内を通して、雇用は徐々に回復し、新規失業者の申請数は減少に転じるはずです。残りの年内で人々が復職する中、購買担当者景気指数は、サービス業界を中心に回復し続けることになるでしょう。食品サービス、クルーズ、航空、ホスピタリティといった業界は、予想を超える伸びを見せるかもしれません。テクノロジーなど「テレワーク」型の業界 (FAANG 株も含む) は予想を下回る結果となる可能性があります。GDP は伸び続けるはずですが、年末に向けて成長率は停滞するかもしれません。人口増や、今後金利が上昇すると見込んだミレニアル世代がこの機会を逃さないようにと考えていることなどを背景に、住宅市場も強気な流れが継続することでしょう。(ジョー・バイデン氏の政策による影響の分析は、こちらをクリックしてください。)
米ドル
ワクチン開発が進み、復職する人が増えるにつれ、財政・金融政策の必要性は減じていくことになりますが、中央銀行の多くが、2021 年を通して金融政策を維持していく意向を示しています。米ドルには今年前半を通して圧力がかかり続ける可能性があるものの、2022 年にかけてインフレが生じるようであれば金利を引き上げる旨を連邦公開市場委員会がほのめかしたように、第 3、4 四半期には上昇に転じるかもしれません。
まとめると、経済データが好調であれば、刺激策は縮小する、ということになります。刺激策が縮小すれば、システム内に存在する米ドルが減少します。米ドルの流通が減ると (加えて、商品・サービスへの需要が高まると) 物価が上昇します。
月次でデータを見ると、DXY が 2011 年 9 月からトレンドの上昇スロープを下向きに割り込んでいることが分かります。このレベルから外れたら、2008 年 2 月の底値から 2017 年 1 月の高値にかけて 50% リトレースメントレベル、87.10 付近を次のサポートレベルとして注視します。以下のチャートでは、50% リトレースメントレベルが 87.26 付近、水平のサポートラインは 84.60 となります。
出典:Tradingview, GAIN Capital
株式
11 月、ダウ平均株価は史上初の 30,000 ドル超えを記録しました。S&P 500 と NASDAQ も史上最高値付近に達しました。ワクチンが世界中に導入され、ロックダウンが解除されるとともに、「テレワーク」型の銘柄とバリュー銘柄のポジションが入れ替わることになるでしょう。しかし、連邦準備銀行やその他の中央銀行が懸念する対象が刺激策から第 3、4 四半期のインフレに移り始めたことで、株式市場の盛り上がりは終わりを迎え、下降に転じる可能性があるということは念頭に入れておくべきでしょう。ダウでは、32,700 が 2 月 10 日開始週の高値から 3 月 23 日開始週の底値に基づくフィボナッチエクステンション 127.2% となります。
出典:Tradingview, GAIN Capital
2 年物利回り
今年前半にワクチンが一般に導入されることで、2 年物利回りは 0%~0.25% に留まることになるでしょう。連邦公開市場委員会が今年インフレについて言及し始めた場合は、利回りが上昇することになるでしょう。また、マーケットがインフレ期待に乗ることで、上昇幅は大きくなる可能性があります。
出典:Tradingview, GAIN Capital
原油
世界各地でワクチンの接種を受ける人数が増加するにつれ、製造への需要も上昇します。人の移動も元通りの水準となり、航空各社やクルーズ船も通常の運航に戻ることになります。需要が高まると、原油価格が押し上げられます。ワクチンの展開に伴うウェスト・テキサス・インターミディエイト (WTI) の上昇に注意しておきましょう。2020 年 1 月の高値 $65.66 に近づく可能性があります。
出典:Tradingview, GAIN Capital
製薬各社が今後新型コロナウイルス用ワクチンを続々と発売することで、経済は回復し始め、生活は「元の日常」へと戻るでしょう。しかし、中央銀行が「インフレ」、「刺激策の縮小」という言葉を用いるようになる可能性があるため、マーケットにとっては、この動きは必ずしも朗報とは限りません。
2021 年に米中関係がマーケットに及ぼす影響についての分析は、こちらをクリックしてください。
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