日本円分析:過去の日銀為替介入の背景と注目の米ドル/円価格水準

Article By Head of Market Research

米ドル/円まとめ

  • ここ数十年、日本銀行は通貨の価値を支え、日本の輸出主導の経済を支えるために、時折為替市場への介入を実施してきた。
  • 昨年の介入は米ドル/円が145.00円および150.00円の時に行われたが、このときは同通貨ペアの価格が50日間移動平均を約600ピップス、100日間移動平均を1,000ピップス上回っていた。
  • 週明けに介入がなければ、146.00円~147.00円が注目ゾーンとなるが、円の長期的な強気筋にとっては日銀の政策転換が必要だ。

    為替市場介入とは

    なじみのない読者のために説明しておくと、外為市場介入とは一般に中央銀行が通貨を直接売買することである。中央銀行は自国通貨を売っって通貨供給量を増やし、他の通貨に対する相対的な価値を下げることもあれば、自国通貨を買って供給量を減らし、その価値を強化することもある。

    日銀による為替介入:過去の事例と米ドル/円価格への影響

    日銀は長年にわたり外国為替市場に介入してきた歴史があるが、主な介入のほとんどは、輸出主導の日本経済の競争力を維持するための円高の抑制を目的とするものだった。こうした介入は通常、円を売って外貨、主に米ドルを買うものだった。

  • June 28, 1995: 急激な円高に直面し、日銀は外為市場での円売り介入を決定した。円の価値は急速に上昇し、日本の輸出競争力を低下させ、1990年代初頭の資産価格バブル崩壊後の日本経済の回復を脅かしていた。
  • 19988月11日: アジア金融危機を背景に日銀の為替介入が実施される。この危機はアジア地域で深刻な経済混乱を引き起こし、通貨価値が乱高下した。日銀は経済の安定を維持するために再び介入することを選択し、円を売ることで過度な変動を緩和し、景気回復のための良好な環境の維持を図った。
  • 20032004年:この数年間は日銀による異例の介入が行われた時期である。当時は大幅な円高が進行する恐れがあり、日本の輸出中心の経済モデルに悪影響を及ぼしかねなかった。この脅威に対抗するため、日銀は年間を通じて3,000億ドル超の円売り介入を行い、これは外国為替市場では中央銀行による史上最も大規模かつ持続的な介入のひとつとなった。

    この為替介入キャンペーンのピークは2004年第1四半期で、日銀はこの期間だけで1500億ドル近い円を売った。この時期の介入は円安を維持し、いわゆる「失われた10年」からの日本経済の回復を支える重要な役割を果たした。

  • 20109月15日:この日は2003年から2004年にかけての大規模なキャンペーン以来、初めて日銀の単独介入が実施された。様々な世界経済の動向や世界金融危機の影響により、円高が急速に進んでいたのだ。これに対して日銀は2兆円を超える円売り介入を行い、円高を抑制して日本の輸出企業のサポートを図った。
  • 201110月31日:この日、日銀はこれまでで最大規模の1日介入を実施し、推定で8兆円を売った。当時は円高が続いており、同年3月に発生した壊滅的な地震と津波からの復興に向けた日本の努力に大きな課題を突きつけていた。日銀は大量の円を売ることで、円高傾向を逆転させ、経済復興を促進しようとした。

円安促進に向けた日銀介入

しかし日銀は円安促進のために為替介入を行う可能性もあり、実際に過去にもこうした介入は行われている。とはいえこちらはあまり一般的な行動ではなく、通常、円高を食い止めることを意図した介入ほど劇的ではない。

例えば1990年代後半のアジア金融危機の際、日本はアジア地域の金融不安のために円安に対処しなければならなかった。この時期、日本銀行は他の中央銀行と協力して為替介入を行い、為替市場を安定させたが、これは円安を促進するためのものだった。

もう一つの例は2008年の世界金融危機の時で、外貨を売って円を買うという直接的な外国為替市場への介入はなかったが、日銀は金利の引き下げや銀行システムへの追加流動性の提供など、さまざまな金融政策の手段を用いて経済全体を押し上げ、間接的に円を支えた。

最近では、通貨価値を下げるために何兆円もの円が売られたが、これは20229月と10月に米ドル/円が145円を超え、その後150円をつけたためだった。この価格は1990年以来最高水準(つまり円の最安値水準)だった。

日本円テクニカル分析-米ドル/円日足チャート

 

出典TradingView, StoneX

現在のチャートに目を向けると、米ドル/円は金曜日に145.00レベルを試している。これは昨年9月に日銀が最初に介入したのと同じ水準だが、当局が介入を決める際には、レベルではなく円安のスピードを見ていると述べていることは注目すべきだ。この観点では、円安のスピードは昨年ほど速くはない。

下のチャートが示すように、米ドル/円は50日間移動平均を約600ピップス上回っており、この乖離率は昨年と同程度だ。しかし100日間移動平均との乖離は約700ピップスに過ぎず、昨年の介入につながった長期トレンドの指標である1,000ピップスは下回っている。
多くの米国人トレーダーが独立記念日の連休で外出する来週初めのサプライズはないと仮定すると、日銀は介入の前に146.00円または147.00円までの動きは容認するかもしれない。

今後の動きに関わらず、トレーダーにとっては、中央銀行のように資金の豊富なプレーヤーであっても外国為替市場での1日あたり500億ドル程度の流れを押しとどめることしかできない、ということを認識しておくことが重要だ。持続的な円安を止めるには、日銀がイールドカーブコントロール(YCC)の緩和を手始めに、世界の金融引き締めに加わる兆しを見せなければならないが、これは早くても728日の次回の日銀会合までは起こらないと思われる。


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