ユーロ/米ドルの話題
- 直近の利上げからの会合議事録に際して繰り返されたECBのタカ派的コメントにもかかわらず、ユーロ/米ドルは1.1000ドル付近のレジスタンスラインでもみ合いとなっている。
- 米国とヨーロッパの総合CPI値は引き続き下がっており、今週はユーロ圏のCPIは6.9%、またそえに先んじて発表された先週の米国の総合CPIは5.0%となっている。現時点でより難しい問題になっているのがコアインフレ率で、米国では最近はある程度落ち着いている一方、ヨーロッパでは上がり続けている。
- このテーマについては火曜の東部時間午後1時の週間ウェブセミナーで詳しく取り上げる。
世界で最も人気のある通貨ペアは、長期的に重要となっているレジスタンスゾーンのすぐ近くで価格を維持している。
このゾーンについては再度視野に入ってくるにあたって先月の記事でも強調した。さらにユーロ/米ドルペアでは1.0930ドル~1.1033ドルの約100ピップスのエリアで複数のレジスタンスラインが作用し合流エリアを形作っていた。3週間を経てこのゾーンは曲げられてはいるものの完全に破られてはおらず、本校執筆時点で価格はこのゾーンの下側を浮遊している。
この過程で上昇ウェッジが形成されており、またこのフォーメーションはしばしば弱気な反転を生むことから、1つの通貨の強気トレンドとしては継続的に同じレジスタンスエリアを試し続けている現在の状況は非常に興味深いものとなっており、6か月の値上がりを経た後でもユーロ/米ドルではまだこの見方は有効だ。だがこの動きの背後にある要素であり、より重要なのは、トレーダーたちにとってこのウェッジがブレイクアウトに向かうのか反転に向かうのかを判断する次の手がかりは何かということだろう。これは次のチャートを紹介した後で掘り下げることにする。
ユーロ/米ドル日足価格チャート
チャート作成: James Stanley,
インフレの難題
理想としては、中央銀行はある程度順序だったやり方で金利の引き上げや引き下げを行う。世界のほかの国も対応しなければならない影響を生むことから、この点では利上げのほうが特に重要だ。特にECBが利上げを進めていない場合、米国での利上げすらヨーロッパに影響しうる。米ドルが相対的に強くなり、またユーロが相対的に弱くなることで、去年の前半に見られたようにヨーロッパのインフレが悪化するからだ。また金利が急速に上がると、基盤となる経済にも甚大な影響が出て、脆弱性にさらされることになる。米国で見られた銀行セクターでの不安増大がその一例で、これは基本的に金利リスクの問題から発生したものだ。
インフレ率が高い場合、中央銀行にはそれに対処する以外の選択肢はほぼない。昨年米国で見られたように、高インフレはさらなる高インフレを呼ぶ。昨年の上半期には、FRBが利上げを始めていたにもかかわらず、今回のサイクルでのピークとなるCPI 9.1%を7月につけるまでインフレ率の上昇が続いた。1970年代に米国が学んだように、ある時点で25bpの利上げでは問題への対応ができなくなる。昨年6月にFRBが積極的に引き締めを進め、数十年ぶりに75bpの利上げに踏み切ったのもこれで説明がつく。
FRBがECBよりもわずかに早く対策を始めたことから、インフレへの戦いでは米国のほうがわずかに先んじているように見える。下記のチャートは米国の総合インフレ率(青の線)とユーロ圏の総合インフレ率(オレンジの線)を比較したものだ。
2021年1月以降の米国とユーロ圏の総合CPI比較
チャート作成:James Stanley
上記のデータから、両中央銀行は少しホッとするかもしれない。利上げが意図した効果を発揮し、インフレが緩やかになっているというメッセージになっている。
しかし、データをもう少し詳しく見て、FRBとECBの両方が考慮するデータである、食品とエネルギーを除いたコアCPIに焦点を当ててみると、状況はそれほどはっきりとしていない。
コアCPIは先月、米国と欧州の双方で上昇しており、米国では昨年10月以来の上昇となった。しかし欧州では、コアCPIは14か月連続で上昇を続けており、前月比で横ばいとなったのは1回だけだ。
そのためECBにとっては、まだ軟化が見られないコアCPIは非常に大きな問題である。また先月には2月以来初めて、欧州のコアCPIが米国のコアCPIを上回った。いずれも欧州のCPIは1.4%だった。特に興味深いのは下図の赤枠で示した最近の変化率だ。昨年末のユーロ/米ドルペアの弱気トレンドから強気トレンドへの転換と一致しているが、これはおそらく偶然ではないだろう。
2021年1月以降の米国とユーロ圏のコアCPI比較
チャート作成:James Stanley
上記のチャートから、両中央銀行はいずれもインフレへの取り組みを継続するモチベーションがあるが、それはECBの側で少し大きくなっているかもしれない。コアインフレ率は先月まで米国がある程度緩やかになっていたにもかかわらず、ユーロ圏では上昇傾向が続いているからだ。
これはまたECBの多くのメンバーが最近のメディアでタカ派的な姿勢を見せている理由でもある。今朝発表されたECB議事録では、次回の会合での50bpの利上げが支持されていることがわかる。一方、FRBは5月2日に発表される次回FOMCでの利上げを25bpと予想しており、FRBの今後の利上げを疑問視させるものとなっている。
欧州をめぐるより大きな疑問は、昨年上半期当初はECBが利上げに慎重だったことにもも関係したもので、こうした利上げが欧州の成長にどう影響しうるかということだ。インフレ対応が優先されていることから、これはECBにとってはあまり問題になっているように見える。ししかし、ユーロ/米ドルの値動きと長期的なレジスタンスライン付近での継続的な持ち合いを見ると、市場は常に先を見越しており、ECBの連続的な利上げが昨年第4四半期に新たに行われて以降、欧州金利が積極的に市場の動きに織り込まれていることから、この問題を検討する価値はあるだろう。
ユーロ/米ドル日足チャート
チャート作成:James Stanley、Tradingviewのユーロ/米ドルチャートによる
ユーロ/米ドル、今後の見通し
現時点では、ファンダメンタルズの面では中央銀行の政策とデータの両方からユーロ高が続く可能性がある。しかし上記のチャートから、強気筋は1.1000ドルのハンドルを大きく超えることができなかったことが見て取れる。過去数か月の間に2つの異なるレジスタンスの変節があり、これは直近の例では弱気の反転につながる場合がある上昇ウェッジパターンの形成につながった。
このような状況では、「トッピング」シナリオの可能性も考えられる。これはブレイクアウトが発生し、1.1100ドルレベルまたはそれ以上を試して高値を更新した場合に、価格の急速な反転が見られるということだ。これは2月2日にユーロ/米ドルの1.1000ドルと1.1033ドルの水準で起こったことと似ている。トレンド継続に向けた大きな問題は、買い手が参入して新たな高値をサポートするか、あるいは新たなレジスタンスレベルまで上昇したところで、最終的にトレンドの形を変えるに足る売り手が現れ始めるかどうかで、積みあがった証拠を見るに、テクニカルとファンダメンタルズの背景をを合わせて考えるとその可能性は十分にあると思われる。
短期的なユーロ/米ドルを見ると、1.0909ドルの水準が直近の高値圏での安値であるため、短期的な戦略においてはここが引き続き重要だ。この水準を下回る場合、上昇中のウェッジのサポート側を試すことになり、反転の可能性がさらに高まる。
あるいは高値圏での安値が維持され、価格が1.1000ドルの心理レベルに接近して再度ここを試す展開になった場合、焦点は1.1033ドルと1.1075ドルのフィボナッチ水準に移る。強気筋がこの水準を突破できれば、1.1122ドル、そして1.1185ドルの潜在的なレジスタンスラインでの新たな高値が焦点となり、ここで強気筋が折れる可能性もある。そこで1.1122と1.1185のレジスタンスを突破することができれば、このレジスタンスラインはすぐに無効となり、力強い強気トレンドの継続の可能性が出てくる。
ユーロ/米ドル価格チャート
チャート作成:James Stanley、Tradingviewでのユーロ/米ドルチャートによる
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